どこでも同じなの?日本の東洋医学は多流・玉石混交になっている

ある日、近所のカフェで隣に陣取っていた若者二人。一方がもう片方に、しきりに鍼灸治療の受診を勧めていました。気にしていなかったのですが、声が大きくて内容が聞こえてきたのです。

いわく、良薬口に苦しなどの格言を引用しながら「鍼は痛いほど効くんだ」と説得を試みている様子を聞いていると、どうやら鍼灸院でそのように説明されて、相当痛い治療をされたようです。

可哀想になってきました。彼がかなり乱暴な治療師に巡りあっていたことに気づいていないまま、東洋医学を完全に勘違いして苦行のような治療をしているからです。

鍼灸治療は言わずと知れた、東洋医学のひとつの実践です。日本の伝統医療は漢方薬を主に用いる内科と鍼灸を用いる外科とに分けられています。漢方薬の方が鍼灸治療より多少有名でしょうか。

鍼灸と漢方薬とをどのように使い分けるのかというと、そこには明確な区別はありませんが、一般的には鍼灸は症状を元に治療をし、漢方は体質を元に治療するといった傾向があるようです。

で、その鍼灸治療に焦点を当ててみると、日本の鍼灸治療は多種の考え方をする治療師がさまざまに開業しているといえます。知り合いの鍼灸師に尋ねたとき、怖くて知らない鍼灸師に頼めないと言っていた程です。

治療の狙いそのものから違っているのです。肩こりやストレスによる不調が主な治療対象になっていますが、伝統的には症状の改善が鍼灸治療のゴールではありません。

身体を巡る気と血が滞りなければ、不調は感じないはずです。不調が出るのはどこかで気血が滞っているか、巡らせる力がなくなっていることが原因になっています。

専門家は滞りを起こさせる原因を「湿」と、また巡らせる力の不足を「虚」と呼んで説明することが多いようですが、湿はどこで滞っているのかが問題であり、虚はさらに原因を追求する必要があるという判断になるはずです。

症状の消失だけが問題ではなく、その症状の発生原因を突き止める診断が伝統技術的に極めて大きな要素として扱われています。そして狙いすまして一本の鍼を当てるのが伝統技術というものなのです。

しかし、中医学の強い影響のもと、現代医学と提携して進歩しようとしているグループが主流になっています。もちろん、すべてが悪いはずはありません。症状の消失に重点をおいた技法の集積は大きな成果を提示しています。

さらに西洋医学との連携によって日本の保険制度との連携も整備されつつあり、一部の治療は保険が適用されるという場合も少なくありません。これは治療を受ける側の経済的負担を軽減する上で大きな効果があります。

ただ問題がないわけではありません。特に治療を量で把握して保険適用しなければならない問題から、不必要な治療を増やしてしまう誘惑があったり、保険支払い請求の手続きの問題から資本力がない治療院は蚊帳の外になっています。

これらの問題を解決できれば、さらに鍼灸治療や漢方薬治療の潜在しているメリットを引き出すことが可能だと思われますが、今後の問題として残されているままだというのが現実です。

保険制度の問題、西洋医学との連携の問題などが伝統技術の継承に大きな影を落としているといえそうです。その結果、才能と熱意ある治療師たちが伝統の継承から離れてしまうことも起こっています。

それでも指摘しなければならない事実があります。痛い鍼で良ければ素人に打たせればよいのです。痛い鍼で良ければ鍼の置き方を勉強する必要はありません。

伝統の名人芸を受け継ぐ鍼灸師の鍼は身体に入ったことも感じません。そして症状が軽くなり、体質が変化することで鍼の効果を実感できるものです。