東洋思想の中心にある「気」という言葉、あるいは概念は定義できないものの代表でしょう。これまでも、さまざまな人によって試みられ、そして失敗してきた試みです。
概念を定義できないからといって、存在しないとは言えません。私たちはそのような定義できないものに囲まれて、当たり前のように生活しているからです。
実際、そのような言葉を多く例示することが可能です。例えば「個人」という言葉、「人権」という言葉など。これらの言葉は当たり前のように使われていますが、明確な定義がありません。
説明があるだけなのです。個人や人権などの概念は抽象的であるばかりではなく、根源的な用語なので定義を拒否します。だれでも悩む言葉として「友情」などはいかがでしょうか。
東洋思想の気も同様に抽象概念のひとつであって、根源的な存在のひとつになっています。それで万人が納得する定義は不可能で、私たちにできる理解のために、説明と体験による理解が残されるのです。
気と似たものを挙げて考えてみましょう。会社や町内会、あるいは友人同士の間で当たり前の「連絡」。しかしこれは定義できない。そんなことはない、こういうことだ。とおっしゃるかもしれませんが、おそらくそれは定義にはなっていません。
昔、ある人が別れ際の挨拶に「何かあったら連絡ください」と言うのが決まり文句にしていました。彼の言葉がどんな意味も持たないことは明らかでしょう。どんな事態が連絡を必要としているのか、全く不明確だからです。
またそのときの連絡手段についても同じ問題が見えます。連絡手段はどうすれば良いのでしょうか。常識的には電話すれば良いようですが、彼が電話に出た記憶がないのです。
いずれにせよ、連絡そのものを目に見ることはできません。それは連絡が人間の行動に付けられた名前だからです。つまり目に見えなくてもあると考えられるものは、日常の中に沈み込んでいて、私たちは意識することがありません。
目に見えるものだけがあるのかというと、誰もが否定するでしょう。説明変数という言葉があります。その言葉を使うと何かが便利になるために用いられている言葉で、これには実体がありません。
現象はあるという人もいます。しかし反対する立場の人もいます。現象があるのかないのかについて、専門家による議論が一致を見せないため、立場もいろいろです。
このような例は、英語にもたくさん見出すことができます。ここでは例を挙げるだけに止めますが、例えば集合名詞に分類されるもの、それに抽象名詞などです。探せば他にもあるでしょう。
話が戻るようですが、気は連絡のようなものだといえます。連絡がつながりとその手段を意味するのであれば、つながりは抽象的で目に見ることができません。
同じように、気も各部分の連絡機能を担っています。気が通じているといえば、それぞれが連絡可能な状況を指していると考えられます。人間の身体も各部分が綿密に連絡をとりあうことで機能できます。
肺経は他の部分と関連して機能する連絡の中心的な働きをしています。肺経の働きが連絡によって成り立っているのも、生活上の連絡と非常によく似ています。
気の大きな特徴として何もしなければ上に行くという性質が指摘できますが、連絡も何も工夫しなければ、どんどんと上位に伝わっていき、場合によっては困った事態を招きます。
そして気によって応答が起こります。これは気の原則です。さまざまな手段を用いて気が伝わり、応答による現象が起こります。身体に触られると圧感や温感、質感以上の何かを感じて応答が生じるのです。
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